昨日マイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画『Sicko』を見た。
『華氏911』『ボーリング・フォー・コロンバイン』と、常に議論を巻き起こすドキュメンタリーを作ってきた彼ですが、これも、すごいです!
アメリカで6年を過ごし、娘は今も(きっと今後も)アメリカにいて、息子もそうしようとしていて、おまけに私達夫婦は老後をアメリカで過ごすっていうオプションを検討中で、そんな中でこの映画見ちゃって、もう夫と二人で放心状態になったぐらい。
しばらくアメリカを離れていて、アメリカの医療の現実が薄れかかっていたんだわ、そういえばこんな国でした、アメリカっていう国は。一言で言えば、政府管掌の医療保険がなくて、保険は全て民間の任意保険で、保険会社のやりたい放題の国でした。
当然医療費は馬鹿みたいに高くて、ちょっと高額の治療を受ける時は保険でカバーされるかどうか保険会社の承諾なしには治療を受けることができない、そんな国でした。
アメリカにいる時、夫は胃ガンになったけれど、確かにその検査費用だけでも何千ドルもかかりました。胃の摘出手術が必要という事になって、最初アメリカでの手術を本人は希望していたけれど、医療費の点でというよりは技術的な面で、日本の病院の方がこと胃ガンに関しては格段に経験が豊富だと、帰国しての手術を勧められた。
アメリカでは胃ガンの死亡率が日本と比べてかなり高かったのと、医療費が余りに高いので、周りのアメリカ人には『一家でがん患者が出たら、家を手放さなければならない』のはアメリカでは常識だ、と言われて哀れみの目で見られた。幸いに日本の実家の近くの国立病院に入院する事ができ、転移直前でガンを摘出してもらって、(その後永遠に続いている後遺症との闘いは別として)彼は幸運だった。10年経った今もちゃんと生きている。そして私達家族も、大黒柱を失わずにすみ、そして(持ち家はその時もなかったけれど)無一文にもならずにすんだ。
数週間の入院だったけれど(検査のために1週間、手術とその後で3週間ぐらいだったと思う)、個室を使った差額ベッドを除いて、実際の検査・手術・治療に私が支払ったのは合計十数万円だったと思う。夫が無事に退院して再びアメリカに戻ったときに知り合いのアメリカ人に「1,500ドルぐらいかかった」と言ったら、目を丸くして「日本にはそんなに良い医療保険制度があるかもしれないけど、アメリカの医療は世界一の水準だ」と自慢されてしまった。
この映画を見ながらあの時のことをまざまざと思い出した。映画を作ったムーアさんもきっとそう思っていたんだろうが、アメリカ人ほど外国の事について知りもしないで自分の国が世界一だと思っている国民はいないだろう。確かに先端の高度医療の技術そのものはどの国よりも進んでいるのかもしれない。でも、その医療を受ける事が出来るのは一体国民の何割いるのか、というのは病気になって思い知る大事な点だ。世界最先端の高度医療を受けられるかどうか、ではないのだ。実験的な医療を望んでいるのではない。望んでいるのはスタンダードな普通の医療だ。それを、一家が破産することなく受けられる―アメリカ以外の多くの先進工業国では当たり前のことなんだけど。
高額の医療費―保険会社の承諾がなければ治療が受けられない、必要な治療ではなく資力に応じた治療を選ばざるを得ない、入院代を払えない患者はまるで家畜か何かのように路上に放置される、アメリカとはそんな国に成り下がってしまった。カナダでも、イギリスでも、アメリカ人の嫌いなフランスでも、挙句は敵視しているキューバでさえも実施している医療費の無料化がアメリカでは出来ないでいる。ムーアさんは、アメリカでも出来るはずだ、きっと出来るからやってみようとアメリカに呼びかけている。
ちょっと待って!日本はどう?かつて日本の健康保険は頑張っていた。健保の本人は初診料だけ払えば後は無料だった。それが1割負担になり、2割負担になり、3割負担になり…みんなが半分諦めている『高齢化社会になって国の医療費そのものが膨らんで財政を圧迫している。利用者負担が増えるのは仕方ない、時代の流れだ。』なんて思ってはいないだろうか。私もそう思いかけていた。
でも、この映画見て思った。カナダも、イギリスも、フランスも、キューバも病院にただで行けるんだよ。フランスなんて、往診までしてくれるんだよ。
イギリスの誰かが言っている。『戦争やって失業がなくなるのなら、医療を充実させても失業がなくなる』って。
日本の健康保険制度はどうか?年を追うごとにアメリカの私保険依存に近づいているようだ。これって逆行じゃないか。
年々公的制度が貧弱になり、それに補填する形でみんな競って民間保険に加入する。保険会社は政府がサボってくれた方が得なのだ。『ガンになったら、何十万円、何百万円かかりますよ。だから保険に入りましょう。』ガンになっても保険会社が言うほどお金はかからない。健康保険からの7割払われている。不安を煽って保険をたくさん売りたいのだ。
アメリカと同じ道を日本はたどろうとしている。みんなー、この映画見て!アメリカに右へ倣え!するばかりが良いんじゃないよ!
私達はむしろもっと公的制度の充実を求めるべきなんだよ!
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