11月1日日曜日。結婚式―
昨日の雨もすっかり上がり、冷たい乾いた風が湿気も吹き飛ばし、ガーデンウエディングのためにあつらえたようなお天気となりました。
私は予定していたとおりちゃんと着物を着ましたよ。練習した甲斐がありました!義母に譲り受けた留袖じゃなくて、娘のお婿さんのお母様のおっしゃった『秋らしい色でお願いね!』と言うリクエストにも応えず、その昔母が私のために作ってくれたピンクの付け下げです。娘が「これがママに似合う色」と太鼓判を押してくれたので自信(?)はあるんだけど、うまく着られるといいなあ、とちょっと不安だった、実は…
主役の娘の着付けは実に簡単で、写真撮影の10分ほど前にタンクトップと穴の開いたジーンズ姿で現れた彼女は、私たちの部屋でシャンパンゴールド色のドレスに着替えて、ハイ出来上がり!ブライズメイドの友人に2分ほどメーキャップしてもらって、"I'm ready! Mom, you look great!"
皆でセレモニーの会場であるガーデン(何のことはない芝が植わって、木が生えているだけなんだけど)に出てみると、新郎と彼の家族、ゲストたちも三々五々集まり始めていて、Innの従業員が会場に花を運んだりしてそれっぽい雰囲気になってきている。あれ?花を運んでいる人は、あらあら、新郎じゃないの!自分の式だから、自分で働いてるってわけね。結構、結構…?でもせっかくの衣装に花粉が付いてしまって…
フォトグラファーが待っていて、まずは撮影から。ブライドは大忙し。家族と、友人と、いろんなフレームに納まらなきゃいけない。でもここまで順調の様子。皆に愛想を振りまいて頑張っている。
いよいよセレモニー。二人の宗教が異なっているので、聖職者の立会いはない。宣誓は二人が自分の言葉で誓いを述べる。二人の友人たちがいくつかの詩の朗読をしてはなむけをしてくれる。私が日本から持っていった自作のリング・ピローは、娘の友人(ベビーシッターの相手)の手にしっかりと握られている。娘の何と幸せそうに見えること。輝いていて、笑顔で頬が割れそうなほどだ。(ん?そんな表現ある…?)とにかく、あんまり幸せそうなので、それを見ただけですべて許してしまおう。
まあ、いっか。幸せなんだから。よかったね。ここまで来れて。おめでとう!
最後に、友人の司会者が夫婦となったばかりの二人を改めて参列者に紹介する。これで晴れて夫婦となりましたよ、皆さんどうぞ拍手で二人を送り出してください、ってわけで。
誇らしげに響くし司会者の声:
では、皆さん、改めて○○さんご夫婦を紹介します!
参列者:
大きく拍手
私もそうしていた。夫なんか何も考えず手だけ動かしていた。
一瞬だけ間があって、私の手は止まった…え?今何て言った?○○さん?それって私たち親夫婦の苗字。つまり娘の苗字。あれ?????
私が引きつった顔で彼のほうを見、彼が数秒後にその意味を悟る。新郎のご両親のほうを見ると、通路の向こうだけれど明らかにあっちのご両親は青ざめた顔をしている。
苗字問題はすったもんだあったから、とりあえず現時点ではどちらも元の苗字のまま行くことになっていたはずだった。娘の苗字を二人で名乗るというのは、彼の主張だけれど、まさか結婚式の場でこんな形で強引に披露するとは思ってもいなかった。たかが苗字、されど、両方の家族みんなに混乱と疲労をもたらしたこの問題をこんな形でまさか押し切るとは、思ってもいなかった。
友人に囲まれている彼ら二人に、騒動を起こさないように事情を聞かなくては。
セレモニーの後は、簡単なバッフェ。皆にお礼を言って室内に迎え入れた後でようやく娘を捕まえることが出来た。娘は半分引きつった笑顔で「あ、あれ?あんな事言ってくれなんて私たち頼んでないのよ。司会の彼女が勝手に言っただけの事よ。何か言わないといけないと思ったんでしょ。」
そっけない返事だが、この場で騒動が起こらなくて何よりの返事。早速、向こうのご両親をつかまえて、あれは間違いだったようで…と何で私が言い訳してるんだよ、といぶかりながらも、謝ってみる。するとやっぱり彼らも、あの「○○さんご夫妻」発言にぎょっとして息子に問いただしたのだとか。親達一同でほっと胸をなでおろした一幕。
でも決着が付いてないから、いずれそのうち再燃するんだけどね…この場で揉めなくてもいいよね…
あー、でもやれやれ、このバンクウェットが終わればすべて終わり、後はうちの息子がフロリダに無事に帰れば今回は落着だー!と思いながら娘たちの幸せそうな顔を見ていた。新郎新婦は参列者一人ひとりに言葉をかけて楽しく話をして、職場の同僚、友人、親戚を次々と送り出し、私たちは息子のフライトが気になり始めていた。フライトは午後5時だけれど、4時には空港に着きたいよね。ここから1時間15分はかかるから、もうそろそろタクシーの手配をしないとね。午後1時を回って夫と息子が席を立った。
結婚式は無事に終わった。簡素だけれども、彼らなりに精一杯で、決して背伸びをしない人柄が好く出たいい結婚式だったと思った。よくやったね、ってほめてやっていた。ドレス選びやケーキやギフトや、娘が私に助けてもらいたかった事が山ほどあっただろうに、一人でこれをやったんだなあ、頑張ったんだなあ、と褒めてやらなくては、戻ってきたら。
あれ?戻ってきたのは戻ってきたけれど、なんか様子がおかしいぞ?息子も夫もひどく動揺している…どうしたの?
「タクシーが来てくれないんだよ」と夫と息子。
「いったいこのホテルどうなってるんだか!タクシーの手配の出来ないホテルなんて聞いた事がない。空港まで行くタクシーを手配してくれって言ったらフロントの人が2,3本電話してどこも来てくれないって言って、自分で電話しろって言っていくつかナンバーをメモしてくれたんだよ。それで僕たち電話持ってないから、(娘に言って娘に電話してもらったんだけど)そのどれもが、遠くの業者らしくて来てくれなかったり、通じなかったりなんだよ。もう一回フロントに行って、そう言ったら、今度はまた別の業者をいくつかリストしてくれたんだけど、娘が言うには局番からして、どれもやっぱり地元の業者じゃないからきっと断られるだろう、って言うんだよ。それに業者の名前からして役に立ちそうに見えないだろう?
確かに。そのリストの名前は、何とかリモサービスとか、リムジンサービスとか、デラックスリモとか、そんなのばっかりで、空港に行くだけのタクシーを出してくれそうな名前じゃない。
でも今手元にあるのがこのリストなら、この中で何とかタクシーを出してくれるところを探さないといけないでしょう、ひょっとすると来てくれるかも知れないし。それに、部屋に戻れば、ここに来るときに使ったタクシードライバーの電話番号が残っている。私たち家族と、娘、それから娘の友人たち二人も一緒に私たちの部屋に向かう。
息子が必死にトライしてみるがすべて断られたとき、娘の友人が「ここまで来てくれなくても、Northampton(娘たちの大学のある町)までいけばキャブは来てくれるよ。そこまでジェレミー(グルームの弟)がどうせ帰るんだし。」といって、自分が使った事のあるタクシーの番号を教えてくれた。それはいい考えだ。彼の弟に頼んでNorthamptonまで行って、そこでキャブに拾ってもらうように予約をすればいいのよ。と娘が同意したので、わたしは娘に頼んだ。「じゃあ、お願いだからそこに電話して来てもらってくれる?大学っていっても、どこのストリートとか、ビルディングとか、ちゃんと指定しないと拾ってもらえないでしょ?あなたしかこの辺りの事も大学の周辺も知らないんだから。」
ところが娘は冷たく突き放した。弟に向かって、”You do it! It's not my job! You're grown-up."
そばにいた私は自分が真っ青になるのが分かった。自分の耳で聞いたのでなければ、彼女が自分の弟に、皆も前でそんな事を言うなんて信じなかっただろう。自分のためにわざわざフロリダから来てくれた弟に、ホテルの不手際なのか誰の不手際なのか分からないけど、タクシー一つ呼ぶ事ができないことを自分の責任と思わないで、逆に弟の責任のように言う我が娘を信じがたい気持ちで唖然と見つめた。そして、きっとこの場できょうだい喧嘩が勃発するのは避けられないだろう、こんな日に、お友達の前でさ、と覚悟したとき、息子は娘の言葉が聞こえなかったかのように落ち着いた声で、
「なんていう名前の場所を指定すればキャブが来てくれるの?」と聞いた。そして、姉の友人がくれたナンバーに電話して自分のクレジットカードナンバーを伝えキャブの予約を済ませた。息子は何一つ不足がなかったように自分の荷物をまとめ、姉の友人たちに別れを告げて、ホテルの正面に向かって行った。夫が見届けようと一緒に部屋をでる。私はほどきかかった帯を解いて服に着替えたらすぐに後を追うつもりだった。
ところがその数分後、息子と夫があわてて部屋に戻ってきた。
新郎の友人たちも、彼の弟も誰もNorthamptonに行ってくれる人がいない、結局新郎のお父さんが空港まで直接送ってくれる事になったから、例のキャブはキャンセルした、ところがキャブはキャンセルは受け付けないし、たとえ車を出さなくても、所定の料金はクレジットカードから引き落とす、と言う。それが理にかなっているかどうかは知らないが、息子はここでも怒鳴りたいのをぐっとこらえて、「Thanks a bunch for helping!」と静かに皮肉を言うにとどめた。
いろいろあったけど、それでも新郎のお父さんのおかげでどうやら空港まで安全に間に合う時間に着けそうだとほっとして、私と夫は息子を送りにホテル正面に向かう。お父さんが車を出してくれている。新郎はその近くに友人と一緒にいるが息子には見向きもしない。娘も弟と私たちの用事はもう済んだという顔をして行ってしまった。私たち両親だけが、息子を送り、お父さんにお礼を言う。
腸が煮える思いで。いや、単なる怒りではない。娘の晴れの日なのだ。しかも彼女は一生懸命努力した彼女の「良き日」なのだ。そこに息子が駆けつけてくれた。彼だってわざわざフロリダから来るのは用意ではなかった。行きも帰りも乗り継いで、ほぼ一日がかりで来ている。土曜の早朝寮を出発するために、金曜から眠っていなかったと言っていた。今日も寮に着くのは深夜のはずだ。息子は怒りを見せることなく姉婿のお父さんに感謝して帰って行った。私は涙をこらえるのに必死だった。
私も夫もすっかり疲れていた。でもこの日はまだ終わりではなく、娘夫婦に誘われて、彼らの友人達二人と一緒にCorn Mazeに行くことになってしまった。二人の住むアパートにほど近いCorn Mazeのことは以前に娘から聞いて知っていた。空からコーン畑を見下ろすと絵が描かれている迷路は楽しいもののはずだった。雲ひとつなく冴え渡った秋空の下、完熟したコーン畑の土と葉の匂いは、それなりに心を和ませてくれたとは言える。心に懸かる雲がなかったら…
それに、日が差している間は心地よかったんだけれど、日没と同時に寒くなることと言ったら!わずか1時間半ほどだったと思うのだけれど、日が西に傾いたかんなと思ったら、一気に気温が下がってきて、コートを羽織っていたのだけれど、仕舞いには寒くてがたがた震えていた。土地の人達に言わせると1日の間に30℃位気温が上下するのは普通らしいが。
Corn Mazeの後は新郎のご両親と一緒に食事。
彼らと会う機会はとても少ないし、それに息子を空港まで送ってもらっているのだから、ちゃんとお礼を言っておきたいし、それに娘と一緒にいられる時間はもうあまりないんだし。
向こうのご両親に、息子を送ってもらったお礼と、新郎新婦がもう少し大人にならないとねって言う話をしていると、それをもれ聞いた娘がとってもつむじを曲げてしまった。「私は3回も電話をしてやったのよ!(弟は)もう大人なんだから。それに携帯だって貸してやったし!」とまた同じことを言い出す始末。
ここで娘にも話をしておかなければいけない、もう今夜しか話す機会はないんだし:
相手が大人かどうかが問題じゃないでしょ。相手が大人だろうとどうだろうと、これは招待したあなた達二人の責任なのよ。お父さんが空港に送ってくれなかったら、弟はフロリダに帰れないところだったのよ。あの子は何にも言わずに帰って行ったけど、ほんとはすごく怒っていたのよ。
もう済んでしまったことだけれど、せっかく来てくれた弟に不愉快な思いをさせたんだから、あとで謝ってね。あなたのほうで大人にならないとね。
娘はすっかりむくれてしまっている。自分だって一生懸命頑張ってきたのに、何で自分の弟なんかにゴマをすらないといけないのが、合点が行っていない…そんな顔をしている。しぶしぶうなずく…
食事が終わって、もういい加減にホテルに戻って眠りたかったけど、皆は新郎のご両親の家に行ってコーヒーでも…って話をしている。時間はまだ8時だったし、私たちも同行する。この次いつ会えるか分からないのだし。ただ、もう何を話していたか覚えてないなあ、時差ぼけと緊張が続いていたせいでの疲れとで腰を下ろしたとたんにボーっとしてしまって…
長い長い世間話と、それから社交辞令と、それから今日のお礼と、それからきっと日本にも来てくださいねっていう(あ、これも社交辞令?)…2時間ほども皆でお話して(ほんとにアメリカ人って話が長いんだよなあ。←これ夫の弁)今度こそホテルに送ってもらった。
ここからが私たち親子の別れだ。娘との別れがつらかったからではなくて、それもあるかもしれないけれど、傷つけた息子と大人にならない娘が心配で涙が出てしまう。どうか弟にひと言でいいから謝っておいてね、と頼んだのだが…
まあ、考えてみればそんなことを娘に頼んだ私が間違っていたのだ。親にこうしろと言われたからといって、それにやすやすと従うような娘であったためしがないのに。それを一番良く知っているはずの私が、「今日ぐらいはママのいうことを聞いてくれるんじゃないか」なんて期待するなんて…なんて浅はかだったか。
その浅はかさは、翌早朝思い知らされることになる…
最近のコメント