プルシェンコは本気だ。
初日のSPでプルシェンコは復帰をアピールした。
1番滑走、は仕方なかった。彼は前年まで休んでいたのでISUでは順位がない。ところが、いきなり非の打ち所のない4回転3回転のコンビネーションジャンプを見せつけ、文句なしのトリプルアクセル。4年前までの彼なら、次のトリプルルッツは失敗なんて考えられないが、ちょっと緊張の糸が解けかかったのか、2回転になってしまう。それでも彼のジャンプは健在であることを誰もが疑わない。あの目の覚めるようなステップワークは、この日は少しスピードに欠ける。さすがの彼でも長いブランクの後の初戦は緊張しているんだろう、ちょっとスケートが重いんじゃないの?全体として、いい内容であることは間違いないけれど、2週間前のロシアでの大会(Perm)で見せたSPの方が動きがいいかな?
SPの得点は82,25―プルシーとしてはけして高得点じゃないけど、まずまずかな。
プルシーは健在であることを十分にみんなに見せ付けたSPだった。だが、同時に彼だってナーバスになっていたことも見せた。彼を4年間待っていたファンは大喜びし、そうじゃない人たちは、懐疑的に「フリーが見ものだ。体力が持たないだろう。もう彼には切れがない。」とか皮肉を言ったことだろう。
そして翌日のフリー。得点的には158,40。前日のSPと合わせて240,65。もちろん優勝。スポーツ欄の見出しには「プルシェンコ快勝」と。
うーん、数字だけではやっぱり伝わらないものがあるかな。この日の彼を『快勝』なんて言葉で表現してはいけないんじゃないかと思う。でも、他に何と言えば?
スポーツも芸術も文字の力でそれを表現するのは限界があるんだ。
SPでのプルシェンコに、仮に一抹の不安を感じていた人がいるとすれば、フリーで彼が一つ二つミスをして、2位以下の他の選手が抜群の出来で逆転して『皇帝を倒す』ことがあるかも知れない、なんてことを考えていた人がいるとしたら(日本にはいたかもしれないけど)、この日プルシェンコのフリーを見て、そういう疑念とも期待(?)ともきれいに決別できたってことは言えるだろう。
このプログラムには彼は4回転を2つ入れていたが、この日彼は4回転をあえて一つにして「完璧な演技」を心がけた。自分自身に対して、観客に対して、そしてジャッジに対して、自信を植え付けるために。
そう、まさしく、彼は一つ一つのエレメントをきちんとこなす滑りをしたのだと言える。取りこぼしをしない減点のない演技。ジャッジの詳細なスコア表からはそれが見て取れる。
でも、それだけじゃないんだ。あのFSはそのうち誰かがYouTubeにアップロードしてくれるだろうけど、本当に凄かった。俺は本気なんだ、ということを皆に見せつけたんだ。
ジャッジの正面で挑むかのようなステップ。何シーズンもやってないからって忘れてもらっちゃ困るなとでも言わんばかりのしぐさ。彼は誰が評点するか知っている。俺が一番だって言っただろ!観客をあおる。観客はすっかり彼の虜になってしまう。それを全部滑りながらやってのけるのだ。
そして何というエンディング。時間一杯にスピンを回るんじゃなくて、「もう今日はやることは終わったんだ。良いスケートだったってことは自分が一番良く知っている、そうだろ?」とでもジャッジに言っているかのようなそぶりで。
これがグランプリシリーズの6つの大会のうちの一つに過ぎない、まだシーズン序盤なんだってことを忘れてしまう。なんて奴が帰ってきたんだ、鳥肌が立つ。
これで皆目が覚めたはずだ。彼は帰ってきた。しかも本気だ。
| 固定リンク


コメント