道中記第3日
今日は彼の両親に会いに行く。お昼ぐらいに来てくれといわれているので、まず彼のアパートに行って、そこで娘に朝ごはんを作ってもらう。トーストとオムレツ―娘がオムレツを作っている!しかも中に入れる具の手順やフライパンについて講釈付!―彼は自分でオートミールを作って食べている。
食べた後は、出かけるまでの間何もすることはない。散歩してくると言って夫と二人で部屋を出たけれど、行く当てはない。アパートと、芝生と木々のほかはコンビニと小さなモール。その辺を歩き回ろうにも、道路は一直線に伸びた道1本きり。仕方ないので、大きなメープルの木下でボーっとしている。天気はすばらしくよくて、何も考えずに済むならばこんな素晴らしいバケーションは無いように思う。
夫は終始無言で何を話しかけてもウンとかスンとしか言わない。(言わないよりましではある)
両親の家は遠くなかった。車で3,40分くらいかな。緑の木立の中を延々と走って、白く塗られた美しい家に到着。芝は緑が濃く雑草は一本も見当たらない。近隣の家との間は広く空いていて、松の大木の並木が背後の農場との仕切りになっている。
ご対面である。まずはご挨拶。手土産を渡して、素敵なお家ですね(本当に素敵なお家なのだ)!プールサイドに張り出したテラスで、長旅をねぎらっていただいて…えっと、何を話したらいいんだろう?向こうがいろいろと気遣って聞いてくれる。昨日見に行った大学のことや、お互いの家族のこと。娘が弟の事をいろいろ聞きたがって(彼女にしても弟は1年前に会って以来なので)弟のことでちょっとだけ場が保てる。
娘は空気を読んで行動することが何より苦手で、その場で思いついたことを何でも言ってしまう間の悪い人だけれど、今回は彼女がこの場を救っている。私たちはめっちゃくちゃ緊張している。私も夫も。向こうの両親も満面の笑みを浮かべてはいるが、緊張しているのが分かる。彼は自分の親の家ではあるが敏感になっている。一番リラックスしているのはうちの娘だ。あけっぴろげな発言で緊張のガスを抜いてくれている。あと、猫がいた。猫たちは空気を読まないだけにありがたかった。
家の中を案内してもらう。雑誌では見たことはあったけれど、こんなに手をかけられて、愛しまれてきれいに使われている家に通して貰ったのは初めてだ。家具の一つ一つ、部屋の壁紙、お金もかかっているけれど、何年もかけて自分たちで手を入れてここまで美しい家にしましたって言うのがよく分かる。
それに家の外ときたら!庭の花々はよく手入れされていて虫食いのあとすらない。我が家の虫でぼろぼろになった花々を思うと恥ずかしい限りだ。いったいこれだけの広さの庭と、芝生を手入れするのにどれほどの時間と労力を費やしていることか。夫は庭はまったくの門外漢なので、ひたすら黙って後を突いて歩く。私が一人で花や木々をほめている。
エーと、大事な話はどこですればいいのかな?私はそれしか考えられないが、誰も切り出す様子が無い。家に来てもう1時間もコアな話には近寄ろうとしない。ここでも私か。仕方ない。
実は昨日二人と将来の話をしましてー。私たちも彼らに祝福を贈ったんですよ。ってところから始める。一斉にみんなの緊張の度合いが高まって、そして少しだけほぐれる。みんな共通の土俵に立ったことを宣言したので、それなりに安心した。お互いに。結婚のセレモニーを計画しているようだけれど、私たちはこの国での習慣とか何も知らないし、遠いところにいるので実際にしてやれることが少ないと思うのですよ。せいぜいお金を出してやって、それからセレモニーに出席するくらいしかできないと思うのです。どうぞ彼らを助けてやってくださいな。
それからは、少し和やかになったかな。はっきり言って何を話したかあんまり覚えていない。なんだかずっとしゃべっていた。向こうのご両親と私とで沈黙が怖いのでしゃべり続けるっていう感じ。娘はその間に退屈になったようでプールに寝そべって水で遊び始めるし。
私、思わずご両親と彼に「はっきり言って、まだこんな子供ですよ。それでも本当にいいの?」って聞いたもの。向こうはいまさら遅いよ、って思ったかもしれないけど…
自分の事で人が真剣に話をしているって言うのに、とりあえず自分の用が済んだらさっさと自分の世界に入っていってしまうって言うのが、いかにもあの子なんだけど、そんな子どもみたいな娘でほんとに良いわけ?
彼はよほど人間ができているのか、それともとんでもない勘違いしているのか、「彼女のいいところも悪いところずっと見てきてよく知っている。それで良いんです。」って落ち着いて言うけれど。
ここら辺が親と他人の見る目の違いなんだけど、私から見たら娘なんか結婚どころか社会に一人前として送り出すのさえまだ早い半人前。彼には、彼女は社会性が未発達な子どもじゃなくて、そういう人格を持った大人。
んー…うまく行くかしらね?
お昼ごはんは軽くピザですませて、ディナーは大学近くのインディアンレストランへ。料理はとってもおいしかった。雰囲気もよかった。途中で娘がいきなり、もう食べられない。と言って食べるのをやめてしまったけど。こういうことは別に不思議なことじゃない。自分が食べたくなくても、食べている振りをする、とかいう事が出来ない人なんだから。向こうのご両親が心配してくださるので私としては冷や汗ものだったけれど、彼女が子どものときのように「もう食べられないから、外に出てきて良い?」とか言わなかっただけましだった。ずっと緊張してたんでしょう。だからだわきっと。
みんな納得。
考えてみれば、きっとそうだ。あの子がこんなに緊張してるんだ!これは驚きである。この2日半親にずっと付き添って、あれこれ気を遣って(彼女にすれば120%の出来だ)、とんでもなく緊張していたに違いない。そっかー。
でもさー、ご両親が優しい人たちでよかった。物静かな彼はこういうご両親から育ったんだ。と実感。日本と違って、お姑さんたちと同居する習慣が無いから、出来の悪いうちの娘でも我慢できるのかなあ。それでも、快く受け入れてくださってる様子。批判がましいことも一言も口にされなかったので、器が違うのかなー、と感心してしまう。
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